るい電燈の照明の下に名題役者《なだいやくしゃ》の歌舞伎が常設的に興行せられ、それでも入場料は五銭とか八銭とかの謂わば大衆的な低廉《ていれん》のもので手軽に見られる立見席もあり、私たち貧書生はたいていこの立見席の定連《じょうれん》で、これはしかし、まあ小芝居の方で、ほかに大劇場では仙台座というのがあり、この方は千四、五百人もの観客を楽に収容できるほどの堂々たるもので、正月やお盆などはここで一流中の一流の人気役者ばかりの大芝居が上演せられ、入場料も高く、また盆正月の他にもここに浪花節《なにわぶし》とか大魔術とか活動写真とか、たえず何かしらの興行物があり、この他、開気館という小ぢんまりした気持のいい寄席が東一番丁にあって、いつでも義太夫《ぎだゆう》やら落語やらがかかっていて、東京の有名な芸人は殆《ほとん》どここで一席お伺いしたもので、竹本|呂昇《ろしょう》の義太夫なども私たちはここで聞いて大いにたんのうした。そのころも、芭蕉《ばしょう》の辻《つじ》が仙台の中心という事になっていて、なかなかハイカラな洋風の建築物が立ちならんではいたが、でも、繁華な点では、すでに東一番丁に到底かなわなくなってい
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