は、再び隣家と絶交しようと思ひはじめた。或る日、三郎が真面目な顔をしてやつて来て、
「姉さんと結婚して下さい。」と思ひつめたやうな口調で言つた。
才之助は、頬を赤らめた。はじめ、ちらと見た時から、あの柔かな清らかさを忘れかねてゐたのである。けれども、やはり男の意地で、へんな議論をはじめてしまつた。
「私には結納のお金も無いし、妻を迎へる資格がありません。君たちは、このごろ、お金持ちになつたやうだからねえ。」と、かへつて厭味《いやみ》を言つた。
「いいえ、みんな、あなたのものです。姉は、はじめから、そのつもりでゐたのです。結納なんてものも要りません。あなたが、このまま、私の家へおいで下されたら、それでいいのです。姉は、あなたを、お慕ひ申して居ります。」
才之助は、狼狽を押し隠して、
「いや、そんな事は、どうでもいい。私には私の家があります。入《い》り婿《むこ》は、まつぴらです。私も正直に言ひますが、君の姉さんを嫌ひではありません。はははは、」と豪傑らしく笑つて見せて、「けれども、入《い》り婿《むこ》は、男子として最も恥づべき事です。お断り致します。帰つて姉さんに、さう言ひなさい。清貧
前へ
次へ
全20ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング