の神秘です。それは、私にとつても無意識なもので、なんと言つてお伝へしたらいいのか、私にもわかりません。つまり、才能といふものなのかも知れません。」
「それぢや、君は天才で、私は鈍才だといふわけだね。いくら教へても、だめだといふわけだね。」
「そんな事を、おつしやつては困ります。或いは、私の菊作りは、いのちがけで、之を美事に作つて売らなければ、ごはんをいただく事が出来ないのだといふ、そんなせつぱつまつた気持で作るから、花も大きくなるのではないかとも思はれます。あなたのやうに、趣味でお作りになる方は、やはり好奇心や、自負心の満足だけなのですから。」
「さうですか。私にも菊を売れと言ふのですね。君は、私にそんな卑しい事をすすめて、恥づかしくないかね。」
「いいえ、そんな事を言つてゐるのではありません。あなたは、どうして、さうなんでせう。」
 どうも、しつくり行かなかつた。陶本の家は、いよいよ富んで行くばかりの様であつた。その翌る年の正月には、才之助に一言の相談もせず、大工を呼んでいきなり大邸宅の建築に取りかかつた。その邸宅の一端は、才之助の茅屋の一端に、ほとんど密着するくらゐであつた、才之助
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