。熱も少しあるようだ。寝ながら、きょう買って来た本の目次などを見る。演劇の本は、本屋にもあまりないので、困っている。洋書だったら、兄さんが演劇に関するものも少し持っているようだが、僕にはまだ読めない。外国語を、これから充分にマスターしなければならぬ。語学が完全でないと、どうも不便だ。
 一眠りして、起きたのは午後三時。梅やにおむすびを作ってもらって、ひとりで食べた。けれども、一つ食べたら、胸が悪くなって、へんな悪寒《おかん》がして来て、また蒲団にもぐり込む。杉野さんが、心配して熱を計ってくれた。七度八分。香川先生に来ていただきましょうか、という。要らない、と断る。香川さんというのは、母の主治医である。幇間《ほうかん》的なところがあって、気にいらない。杉野さんから、アスピリンをもらってのむ。うつらうつらしていたら、ひどく汗が出て、気持もさっぱりして来た。もう大丈夫だと思う。兄さんは、朝から、れいの事件で下谷へ行ったそうで、まだ帰らない。簡単には、治まらなくなったらしい。兄さんがいないと、なんだか心細い。また、杉野さんに熱を計ってもらったら、六度九分。勇気を出して寝床に腹這《はらば》いにな
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