って、日記をつける。われ、大学に幻滅せり。どうしてもそれを書きたかったのだ。腕がだるい。いまは夜の八時である。頭がハッキリしていて、眠れそうもない。
四月二十五日。火曜日。
晴れ。風強し。きょうは学校を休む。兄さんも、休んだほうがいいと言う。熱はもう何も無いので、寝たり起きたり。
事件というのは、姉さんが鈴岡《すずおか》さんと別れたいと言い出した事である。直接の原因は、何も無いようだ。ただ、いやだというのだ。いやだという事こそ、最も重大な原因だと言って言えない事もないだろうけど、具体的に、これという原因はないらしい。それだから、兄さんは、とても怒ったのである。姉さんを、わがままだと言って、怒ったのである。鈴岡さんに、すまないというのであろう。鈴岡さんの方では、別れる気なんか、ちっとも無い。とても姉さんを気にいっているらしい。けれども姉さんは、理由もなく、鈴岡さんをきらってしまったのだ。僕だって、鈴岡さんを好きではないけど、でも、姉さんも、こんどは少しわがままだったのではないか、と僕も思う。兄さんの怒るのも、無理がないような気がする。姉さんはいま、目黒のチョッピリ女史のところに
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