。」と言われて、うれしかった。たわいのないものだ。風呂場の暗い懊悩《おうのう》が、団長の明るい一言で、きれいに吹き飛ばされた。木挽町《こびきちょう》で初舞台を踏むという事は、役者として、最もめぐまれた出発なのかも知れない。お前は幸福なのだ、と自身に言い聞かせた。
 以上は、わが、光栄の初舞台の記である。
 家へ帰って、午前一時頃まで、兄さんを相手に、夢中で天体の話をした。なぜ、天体の話などをはじめたのか、自分にもわからない。


 十一月四日。土曜日。
 晴れ。いまは大阪。中座《なかざ》。出し物は、「勧進帳《かんじんちょう》」「歌行燈《うたあんどん》」「紅葉狩《もみじがり》」。
 僕たちの宿は、道頓堀《どうとんぼり》の、まっただ中。ほてい屋という、じめじめした連込み宿だ。六畳二間に、われら七人の起居なり。けれども、断じて堕落はせじ!
 市川菊松は聖人だそうだ。


 十一月十二日。日曜日。
 雨。ごめんなさい。今晩は酔っぱらっています。大阪は、いやなところですねえ。たいへん淋しい道頓堀です。あの、薄暗い「弥生《やよい》」というバーでお酒を飲みました。そうして、久し振りで酔いました。酔っ
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