さん一家も、一等席に来ているそうだ。チョッピリ叔母さんも、お弟子を五人連れて、鶉《うずら》で頑張《がんば》っているそうだ。兄さんからそれを聞いて、僕は泣きべそをかいた。肉親って、いいものだなあ、とつくづく思った。木島さんは、市川菊松! 市川菊松! と二度も大声で叫んだそうだ。提灯持ちに声を掛けたって仕様がない。恥ずかしいことをしてくれたのもである。
「僕の掛声は聞えましたか?」と自慢そうに言う。聞えるどころか、提灯持ちは舞台で気が遠くなって、いまにも卒倒しそうだったのだ。
 兄さんは僕の耳元に口を寄せて、
「楽屋に、すしか何かとどけさせようか?」と通人振《つうじんぶ》った事を、まじめな顔して囁《ささや》いたので、僕は噴き出しちゃった。
「いいんだよ。春秋座では、そんな事は、しないんだ」と言ったら、
「そうか。」と不満そうな顔をしていた。
 二つ目の「坊ちゃん」の時には、割に気楽だった。観客席の笑い声を、かすかに聞きとる事が出来た。けれども、やっぱり、観客の顔は、なんにも見えなかった。馴《な》れて来ると、観客の笑い声だけでなく、囁き声やら、赤ん坊の泣き声まで、はっきり聞えて来て、かえって
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