《いろもようちょっとかりまめ》」。
 僕の初舞台だ。もっとも僕の役は、「助六」では提灯《ちょうちん》持ち、「坊ちゃん」では中学生、それだけだ。それなのに、その稽古の猛烈、繰り返し繰り返しだ。家へ帰って寝てからも、へんな、いやらしい夢の連続で、寝返りばかり打っていた。あんまり疲れすぎると、かえって眠られぬものである。
 けさは八時頃、下谷《したや》の姉さんから僕に電話だ。一大事だから、すぐに兄さんと二人で、下谷へ来てくれ、一大事、一大事、と笑いながら言うのである。どうしたのです、といくら尋ねても教えない。とにかく来てくれ、と言う。仕方が無い。兄さんと二人で、大急ぎでごはんを食べて下谷へ出かける。
「なんだろうね。」と僕が言ったら、兄さんは、
「夫婦|喧嘩《げんか》の仲裁はごめんだな。」と、ちょっと不安そうな顔をして言った。
 下谷へ行ってみたら、なんの事はない、一家三人、やたらにげらげら笑っている。
「進ちゃん、けさの都《みやこ》新聞、読んだ?」と姉さんは言う。なんの事やら、わからない。麹町《こうじまち》では都新聞をとっていない。
「いいえ。」
「一大事よ。ごらん!」
 都新聞の日曜|特
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