・コンチェルトに眼を細める。
七月八日。土曜日。
晴れ。虎の門の竹川病院に行って、いま帰って来たところ。暑い、暑い。ごめんこうむって、パンツ一枚の姿で日記をつける。病院へ行ってみたら、たった二人だ。僕と、それから髪をおかっぱにした、一見するに十四、五の坊やと、それっきりだ。あとの人は、みんな駄目《だめ》だったらしい。すごい厳選だったのだ。ひやりとした。
三人のお医者が交《かわ》る交《がわ》る、僕たちのからだの隅々《すみずみ》まで調べた。峻烈《しゅんれつ》を極めた診察で、少々まいった。レントゲンにかけられ、血液も尿もとられた。坊やは、トラホームを見つけられ泣きべそを掻《か》いた。でも、一週間も治療したらなおるくらいの軽いものだと聞かされて、すぐ、にこにこした。坊やの顔は、そんなに可愛《かわい》くはないが、気味の悪いような個性がある。ひどく長い顔だ。案外、天才的な才能を持っているのかも知れない。僕たちは三時間ちかく調べられた。
春秋座から事務員のような人がひとり来ていた。帰りは三人、一緒だった。
「よかったですね。」とその事務員が言った。「はじめの願書は、樺太《からふと》、新京
前へ
次へ
全232ページ中214ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング