一発なぐってやった。梶は卑猥《ひわい》だ。
 きょう放課後、部員が全部グランドにあつまって、今学年最初の練習を開始した。去年のチイムに較《くら》べて、ことしのチイムは、その気魄《きはく》に於ても、技術に於ても、がた落ちだ。これでは、今学期中に、よそと試合できるようになるかどうか、疑問である。ただ、メンバーがそろったというだけで、少しもチイムワアクがとれていない。キャプテンがいけないんだ。梶には、キャプテンの資格が無いんだ。ことし卒業の筈《はず》だったのに、落第したから、としの功でキャプテンになったのだ。チイムを統率するには、凄いキックよりも、人格の力が必要なのだ。梶の人格は低劣だ。練習中にも、汚い冗談ばっかり言い散らしている。ふざけている。梶ばかりでなく、メンバー全体が、ふざけている。だらけている。ひとりひとり襟首《えりくび》をつかまえて水につっ込んでやりたい位だった。練習が終ってから、れいに依《よ》ってすぐ近くの桃の湯に、みんなで、からだを洗いに行った。脱衣場で、梶が突然、卑猥な事を言った。しかも、僕の肉体に就いて言ったのである。それは、どうしても書きたくない言葉だ。僕は、まっぱだか
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