。案外つまらないものかも知れない。)けれども、夫婦愛というものが、もし此の世の中にあるとしたなら、その最高のものを姉さんは実現なさるでしょう。姉さん! 僕の此の美しい「まぼろし」をこわさないで下さい。
 さらば、行け! 御無事に暮せ! もしこれが、永遠のお別れならば、永遠に、御無事に暮せ。
 以上は、姉さんだけに、こっそり話かけている気持で書いたのですが、姉さんは、この僕のひそかなお別れの言葉に、永久に気がつかないかも知れない。これは、僕ひとりの秘密の日記帳なのだから。でも、姉さんがこれを見たら、笑うだろうな。
 この、お別れの言葉を、姉さんに直接言ってあげるほどの勇気が僕に無いのは、腑甲斐《ふがい》なく、悲しい事だ。
 あすは月曜日。ブラック・デー。もう寝よう。神様。僕を忘れないで下さい。


 四月十九日。月曜日。
 だいたい晴れ。きょうは、実に不愉快だった。もう、蹴球部《しゅうきゅうぶ》を脱退しようと思った。脱退しないまでも、もう、スポーツがいやになった。これからは、いい加減に附《つ》き合ってやるんだ。きゃつらが、いい加減なのだから、仕様が無い。きょう、キャプテンの梶《かじ》を、
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