よりは、むしろ、木村の家の人たちに説教してやりたいものだと思った。木村のお父さんは所謂《いわゆる》、高位高官の人であるが、どうも品《ひん》がない。眼つきが、いやらしい。自分の子供だからといって、よそへ行ってまで、うちのばか、うちのばか、と言うのは、よくない事だと思った。実に聞きぐるしい。木村も木村だが、お父さんもお父さんだと思った。要するに、僕には、あまり興味が無い。ダンテは、地獄の罪人たちの苦しみを、ただ、見て[#「見て」に傍点]、とおったそうだ。一本の縄《なわ》も、投げてやらなかったそうだ。それでいいのだ、とこのごろ思うようになった。
七月五日。水曜日。
晴れ。夕、小雨。きょう一日の事を、ていねいに書いて見よう。僕はいま、とても落ちついている。すがすがしいくらいだ。心に、なんの不安も無い。全力をつくしたのだ。あとは、天の父におまかせをする。爽《さわ》やかな微笑が湧《わ》く。本当に、きょうは、素直に力を出し切る事が出来た。幸福とは、こんな思いを言うのかも知れない。及第落第は、少しも気にならない。
きょうは春秋座の演技道場で、第一次の考査を受けたのである。けさは、七時半に起き
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