んなどと冗談を言って出発したのだが、なんという事もなかったようだ。どうも、兄さんは甘い。
 夜、木島さんとおシュン婆さんと僕と三人がかりで、変なアイスクリイムを作って食べていたら、ベルが鳴って、出てみると、木村のお父さんが、のっそり玄関先に立っていた。
「うちの馬鹿《ばか》が来ていませんか。」と意気込んで言う。
 一昨夜、ギタをかかえて出かけて、それっきり家へ帰らないのだそうだ。
「このごろ、さっぱり逢《あ》いませんが。」と言ったら、首をかしげて、
「ギタを持って出たから、きっとあなたの所だとばかり思って、ちょっとお寄りしてみたのですが。」と疑うような、いやな眼で僕を見つめる。ばかにしてやがる。
「僕は、もうギタは、やめました。」と言ってやったら、
「そうでしょう。いいとしをして、いつまでもあんな楽器をいじくりまわしているのは感心出来ません。いや、お邪魔しました。もし、あのばかが来ましたならば。あなたからも、説教してやって下さい。」と言い残して帰って行った。
 不良の木村には、お母さんが無いのだ。よその家庭のスキャンダルは言いたくないが、なんだか、ごたごたしているらしい。木村に説教する
前へ 次へ
全232ページ中197ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング