俳優として不適当な人だったら、すぐ又お隣りの銀行へという工合《ぐあい》に、手軽に転職も出来ず、その人の一生が滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に破壊されてしまうだろう。どうか大いに厳重に審査してもらいたいものだ。鴎座のようでは、合格したって、不安でいけない。こちらは何もかも捨ててかかっているのだ。無責任な取扱いを受けてはたまらない。
脚本朗読、筆記試験、口頭試問、体操、と四種目あるが、その中でも自由選択の脚本朗読というのが曲者《くせもの》だ。ちょっと頭のいい審査方法だと思った。何を選ぶかという事に依《よ》って受験者の個性、教養、環境など全部わかってしまうだろう。これは難物だ。試験までには、まだ二週間ある。ゆっくりと落ちついて、万全の脚本を選び出そう。兄さんともよく相談して決定しよう。兄さんは、四、五日前から九十九里のお母さんのところへ見舞いに行って、今晩か、明晩、帰京する事になっている。ゆうべ兄さんから葉書が来た。お母さんは、一週間ほど前ちょと熱を出したのだが、もう熱もさがっていよいよ元気。杉野女史は、まっくろに日焼けして、けろりとして働いているそうだ。兄さんは、また杉野さんに泣かれるかも知れ
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