た。六時|頃《ごろ》から目が覚めていたのだが、何か心の準備に於て手落ちが無いか、寝床の中で深く静かに考えていた。手落ちといえば全部、手落ちだらけであったが、それだからとて狼狽《ろうばい》することもなかった。とにかく、ごまかさなければいいのだ。正直に進んだら、何事もすべて単純に解決して、どこにも困難がない筈だ。ごまかそうとするから、いろいろと、むずかしくなって来るのだ。ごまかさない事。あとは、おまかせするのだ。心にそれ一つの準備さえ出来ていたら、他《ほか》には何も要らないのだと思った。詩を一つ作ろうと思ったが、うまく行かなかった。起きて、顔を洗い、鏡を見た。平然たる顔である。ゆうべ、ぐっすり眠ったせいか、眼が綺麗にすんでいる。笑って鏡に一礼した。それから、ごはんを、うんとたくさん食べた。おシュン婆さんも、おどろいていた。いつもは朝寝坊でも、試験だとなると、ちゃんと早起をして御飯も、たくさん食べる。男の子は、こうでなくちゃいけない、と変なほめかたをした。おシュン婆さんは、きょうは学校の試験があるのだと、ひとり合点しているらしい。役者の試験を受けに行くのだと知ったら、腰を抜かすかもしれない。
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