後に病床に倒れてしまった。脊髄《せきずい》カリエスなのだ。もう十年ちかく寝たきりである。お母さんは、病人のくせに、とても口が達者で、それにわが儘《まま》で、看護婦をやとっても、すぐに追いやってしまうのだ。姉さんでなければ、いけないのだ。けれども、ことしのお正月に、兄さんが、びしびしとお母さんに言って、とうとう姉さんの結婚を承諾させてしまったのだ。兄さんは、怒る時には、とても凄《すご》い。姉さんの結婚も、もう間近になったから、先月、看護婦の杉野さんが来て、姉さんに教えられながらお母さんのお世話をはじめるようになったのである。お母さんは、ぶつぶつ言いながらも、あきらめて杉野さんの世話を受けているようだ。お母さんも、兄さんには、かなわないらしい。お母さん! 姉さんがいなくなっても、気を落さず、兄さんとそれから僕の為《ため》に、どうか元気を出して下さい。姉さんだって、もう二十六ですから、可哀《かわい》そうです。わあ、いけねえ。ませた事を言った。でも、結婚は、人生の大事件だ。殊に婦人にとって、唯一《ゆいいつ》の大事件と言っていいかも知れないのだ。てれずに、まじめに考えてみましょう。
姉さんは、
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