音をさせる。
根はぎゅうぎゅうごうごう云う。
上を下へとこんがらかって、畳《かさ》なり合って、
みんな折れて倒れるのです。
そしてその屍《しかばね》で掩《おお》われている谷の上を
風はひゅうひゅうと吹いて通っています。
あなた、あの高い所と、
遠い所と、近い所とにする声が聞えますか。
此山《このやま》を揺《ゆ》り撼《うご》かして、
おそろしい魔法の歌が響いていますね。
[#ここで字下げ終わり]
「僕には朗読できません。」ざっと黙読してみたのだが、このメフィストの囁《ささや》きは、僕には、ひどく不愉快だった。ひゅうひゅうだの、ぎゅうぎゅうだの不愉快な擬音《ぎおん》ばかり多くて、いかにも悪魔の歌らしく、不健康な、いやらしい感じで、とても朗読する気など起らなかった。落第したっていいんだ。「ほかの所を読みます。」
でたらめに、テキストをぱらぱらめくって、ちょっと佳いところを見つけて、大声で朗読をはじめた。第二部、花咲ける野の朝。眼ざめたるファウスト。
[#ここから2字下げ]
上を見ればどうだ。巨人のような山の巓《いただき》が、
もう晴がましい時を告げている。
あの巓は、後になって己《おれ》達
前へ
次へ
全232ページ中162ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング