劣だ! 世の中で、一ばん救われ難《がた》い種属の男だ。これが、あの、「伯父ワーニャ」を演じて日本一と称讃《しょうさん》せられた上杉新介氏の正体か。なってないじゃないか。
「ファウスト!」横沢氏は叫ぶ。がっかりした。桜の園なら自信があったのだけれど、ファウストは苦手《にがて》だ。だいいち僕は、ファウストを通読した事さえない。落第、僕は落第だ。
「この部分をお願いします。」上杉氏は、僕にテキストを手渡して、そうして朗読すべき箇所を鉛筆で差し示した。「一ぺん黙読して、自信を得てから朗読して下さい。」なんだか意地の悪い言い方だ。
 僕は黙読した。ワルプルギスの夜の場らしい。メフィストフェレスの言葉だ。
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そこの爺《じ》いさん、岩の肋骨《ろっこつ》を攫《つか》まえていないと、
あなた、谷底へ吹き落されてしまいますぜ。
霧が立って夜闇《よやみ》の色を濃くして来た。
あの森の木のめきめき云《い》うのをお聞きなさい。
梟奴《ふくろうめ》がびっくりして飛び出しゃあがる。
お聞きなさい。永遠《とわ》の緑の宮殿の
柱が砕けているのです。
枝がきいきい云って折れる。
幹はどうどうと大きい
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