渡し致します。」と言ったが、その声には、聞き覚えがあった。一週間前に電話で問い合せた時に、明瞭《めいりょう》な発音で「午後一時ジャスト」などと言って教えたあの女性の声であった。本当に綺麗《きれい》な声だったので、女優さんじゃないかと思っていたのだが、女は、声だけではわからぬものだ。茶色のダブダブしたジャケツを着て、女優さんどころか、いや、言うまい。何もその人が、あたしは美人だと自負してもいないのに、その人の顔の事など、とやかく批評するのは罪悪だ。とにかく、四十くらいの婆《ばあ》さんであった。
「お名前を呼びますから、御返事を願います。」
 僕は三番目だった。来ていない人も、ずいぶんあった。四十人くらいの名前を呼んだのだが、出席者は約その半数である。
「それでは、一番のおかた、どうぞ。」
 いよいよ、はじまるのだ。一番は、女のひとであった。婆さんに連れられて、しょんぼり中へはいって行った。生気のない事おびただしい。研究所の内部は、二部屋にわかれているらしい。一つは事務所で、その奥が稽古場《けいこば》になっているようだ。試験は、その稽古場で行われる様子である。
 聞える、聞える。戯曲の朗読
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