だ。しめた! 桜の園だ。なんて、まがいいんでしょう。前から僕は、桜の園の朗読は得意だったし、ゆうべもちょっと練習したじゃないか。もう、大丈夫。どこからでも来い! と勇気百倍だったが、それにしても、あの女のひとの朗読は、なんて下手くそなんだろう。一本調子の棒読みだ。ところどころ躓《つまず》いて、読み直したりしている。あれじゃ落第だ。大落第だ。可笑《おか》しくなって、ひとりでクスクス笑ったが、他の人たちは、にこりともせず、眠るが如《ごと》くぼんやりしている。
「二ばんのおかた、どうぞ。」
 もう一番のひとがすんだのかしら。早いなあ。筆記試験は無いのかしら。この次は僕だ。さすがに脚がふるえて来た。なんだか、病院にいるような気がして来た。これから大手術を受けなければならぬ。看護婦さんの呼びに来るのを、待っている。お便所に行きたくなって来た。いそいでお便所に行く。お便所から帰って来たら、
「三ばんのおかた、どうぞ。」
「はい。」と思わず、右手を高く挙げた。
 事務所は、せまくるしく、しかも殺風景で、こんな所から、あの鴎座《かもめざ》の華やかなプランが生れるのかと、感慨が深かった。
 一番と二番は
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