てもいいかも知れない。おくさん、あんまり他人の事は気にしないほうがいいですよ。
(節子) でも、菊代さんは、わたくしどもをいじめます。野中をそそのかして、わたくしどもの家庭を、……。
(奥田)(笑って)引越しますよ、すぐに。
(節子)(にくしみを含めて)たすかりますわ。
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歌声すこしずつ近くなる。
風吹く。枯葉舞う。
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(奥田) 寒くなりましたね。(寝ている野中のほうを顎《あご》でしゃくって)どうしますか? ずいぶん今夜は飲んだからなあ。
(節子) 悪いお酒じゃないんですか? 頭が痛い痛いと言っていましたけど。
(奥田) だいじょうぶでしょう。あれと同じ酒を、漁師たちが朝から飲んでいて、それでなんとも無いようですから。
(節子) でも、あの人たちと野中とでは、からだがまるで違いますもの。
(奥田) 試験台にはなりませんか。(笑う)どれ、僕が背負って行ってやろうかな?
(節子)(それをさえぎって、鋭く)いいえ。わたくしが致します。もう、お手数《てすう》はかけません。
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