大きい平目《ひらめ》二まい縄でくくってぶらさげている。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(野中) 奥田せんせい。やあ、いるいる。おう、菊代さんもいるな。こいつあ、いい。大いにやろう。酒もあり、さかなもある。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから2字下げ]
障子の女の影法師、ふっと掻き消すようにいなくなる。
同時に、障子があいて、奥田が笑いながら顔を出す。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(奥田) ああ、お帰り。(縁側に出る)いいご機嫌ですね。きょうは、どこか、ご招待でもあったんですか?
(野中) ご招待? ご招待とは情ない。(縁側にどかりと腰をおろし)いかに我等国民学校教員が常に赤貧《せきひん》洗うが如しと雖《いえど》も、だ、あに必ずしも有力者どもの残肴余滴《ざんこうよてき》にあずからんや、だ。ねえ、菊代さん、そうじゃありませんか。(腕をのばして障子を左右一ぱいにあけ放つ)菊代さん! おや、いないのか。
(奥田) 妹は、まだ帰って来ないんです。また、れいの文化会でしょう。
(野中)(少し落ちつき)そ
前へ 次へ
全55ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング