ら、おわかりでしょう。(立ち上り、襟元《えりもと》を掻《か》き合せ)おお、寒い。雪が消えても、やっぱり夕方になると、冷えますね。(そそくさと洗濯物をかかえ込んで)お邪魔しました。
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風吹き起り、砂ほこりが立つ。春の枯葉も庭の隅で舞う。
しづ、上手《かみて》より退場。
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(奥田)(縁側に立って、それを見送り)おしんこか何かとどけてくれると言ったが、あの工合いじゃあてにならん。(ひとりで笑って)さあ、めしにしようか。
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奥田、鍋を部屋のなかに持ち運び、障子《しょうじ》をしめる。障子に、奥田の、立って動いて、何やら食事の仕度をしている影法師が写る。ぼんやり、その奥田の影法師のうしろに、女の影法師が浮ぶ。
その女の影法師は、じっと立ったまま動かぬ。外は夕闇《ゆうやみ》。
国民学校教師、野中弥一、酔歩蹣跚《すいほまんさん》の姿で、下手《しもて》より、庭へ登場。右手に一升瓶、すでに半分飲んで、残りの半分を持参という形。左手には、
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