。しかし、僕も、落ちたものだな。菊代さん、まあいいから、その封筒はそちらへ引込めて下さい。
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菊代、封筒を持てあまして、それを、傍の学童の机の上にそっと置く。
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(野中) 御承知のように、僕のところは貧乏です。ひどく貧乏です。どんな人でも、僕の家に間借りして、同じ屋根の下に住んでみたら、田舎教師という者のケチ臭いみじめな日常生活には、あいそが尽きるに違いないんだ。殊《こと》につい最近、東京から疎開《そかい》して来たばかりの若い娘さんの眼には、もうとても我慢の出来ない地獄絵のように見えるかも知れない。しかし、御心配無用なんだ。あなたたちの御同情は、ありがたいけれども、しかし、僕たちの家庭にはまた僕たちの家庭のプライドがあるんだ。かえって僕たちは、あなたたちに同情しているくらいなんだ。そんな、お金なんか、そんな、そんな心配は今後は絶対にしないで下さい。僕たちはあなたたちから毎月もらっている部屋代だって、高すぎると思っているんです。気の毒に思っているんだ。さあ、もう、わか
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