ったから、そんなお金なんか、ひっこめて下さい。一緒に家へ帰りましょう。菊代さん! でも、あなたは、(しげしげと菊代の顔を見つめて)いいひとですね。御好意だけは、身にしみて有難く頂戴しました。(軽く笑って)握手しましょう。
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野中教師、右手を差し出す。ぴしゃと小さい音が聞えるほど強く菊代はその野中の掌《てのひら》を撃つ。
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(菊代)(嘲笑《ちょうしょう》の表情で)ああ、きざだ。思いちがいしないでね。間《ま》が抜けて見えるわよ。あたしは何でも知っている。みんな知っている。そんな事をおっしゃっても、あなたたちは、本当はお金がほしいんです。気取らなくたっていいわよ。あなたも、それからあなたの奥さんも、それからお母さんも、みんなお金がほしいのよ。ほしくてほしくて仕様が無いのよ。そのくせ、あなたたちは貧乏じゃない。貧乏だ、貧乏だとおっしゃっているけれども、貧乏じゃない。ちゃんとしたお家《うち》もあれば土地もあるし、着物だって洋服だってたくさんたくさん持っている。それでも、お金が
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