自信満々の勢いを示している、何かそこに大きな理由が無くてはかなわぬ、その理由は何だ、とたずねますと、女房はにこにこ笑いまして、実は、と言い、男性衰微時代が百年前からはじまっている事、これからはすべて女性の力にすがらなければ世の中が自滅するだろうという事、その女性のかしらは私自身で、私は実は女神だという事、男の子が三人あって、この三人の子だけは、女神のおかげで衰弱せず、これからも女性に隷属する事なく、男性と女性の融和を図《はか》り、以《もっ》て文化日本の建設を立派に成功せしむる大人物の筈である事、だからあなたも、元気を出して、日本に帰ったら、二人の兄弟と力を合せて、女神の子たる真価を発揮するように心掛けるべきです、とここにはじめて、いっさいの秘密が語り明かされたというわけなのです。それを聞いて私は、にわかに元気が出て、いまはもう二日ものを食わなくても平気になりました。私たちは、女神の子ですから、いかに貧乏をしても絶対に衰弱する事は無いんです。あなたもどうか、奮起して下さい。私は正気です。落ちついています。私の言う事は、信じなければいけません。」
 まぎれもない狂人である。満洲で苦労の結果
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