も、男性の疲労がはじまり、もう何をやっても、ろくな仕事が出来ない劣等の種族になりつつあるのだそうで、これからはすべて男性の仕事は、女性がかわってやるべき時なのだそうです。女房が、いや、母が、私にその事を打ち明けてくれたのは、満洲から引揚げの船中に於いてでありましたが、私はその時には肉体的にも精神的にも、疲労こんぱいの極に達していまして、いやもう本当に、満洲では苦労しまして、あまりひもじくて馬の骨をかじってみた事さえありまして、そうして日一日と目立って痩《や》せて行きますのに、女房は、いや、母は、まことに粗食で、おいしいものを一つも食べず、何かおいしいものでも手にはいるとみんな私に食べさせ、それでいて、いつも白く丸々と太り、力も私の倍くらいあるらしく、とても私には背負い切れない重い荷物を、らくらくと背負って、その上にまた両手に風呂敷包《ふろしきづつみ》などさげて歩けるという有様ですので、つくづく私も不思議に感じ、引揚げの船の中で、どうしてお前はそんなにいつも元気なのかね、お前ばかりでなく、この引揚げの船の中に乗っている女のひと全部が、男のひとは例外なく痩せて半病人のようになっているのに、
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