して、呑むべしや、今夜は、死ぬほど呑むべしや、というような工合《ぐあ》いで、一刻も早く酔っぱらいたく、どんどん呑んだ。七時すこし過ぎに、Y君とA君とが、そろってやって来た。私は、ただもう呑んだ。感激を、なんと言い伝えていいかわからぬので、ただ呑んだ。死ぬほど呑んだ。十二時に、みなさん帰った。私は、ぶったおれるように寝てしまった。
 きのうの朝、眼をさましてすぐ家の者にたずねた。「何か、失敗なかったかね。失敗しなかったかね。わるいこと言わなかったかね。」
 失敗は無いようでした、という家の者の答えを聞き、よかった、と胸を撫《な》でた。けれども、なんだか、みんなあんなにいい人ばかりなのに、せっかく、こんな田舎《いなか》までやって来て下さったのに、自分は何も、もてなすことができず、みんな一種の淋《さび》しさ、幻滅を抱いて帰ったのではなかろうかと、そんな心配が頭をもたげ、とみるみるその心配が夕立雲の如く全身にひろがり、やはり床の中で、いても立っても居られぬ転輾がはじまった。ことにもW君が、私の家の玄関にお酒を一升こっそり置いて行ったのを、その朝はじめて発見して、W君の好意が、たまらぬほどに身に
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