た。涙はいくらでも眼からあふれ出て、流れた。
 また、二人ならんで歩きながら、
「しくじった。惚《ほ》れちゃった」
 とそのひとは言って、笑った。
 けれども、私は笑う事が出来なかった。眉《まゆ》をひそめて、口をすぼめた。
 仕方が無い。
 言葉で言いあらわすなら、そんな感じのものだった。私は自分が下駄《げた》を引きずってすさんだ歩き方をしているのに気がついた。
「しくじった」
 とその男は、また言った。
「行くところまで行くか」
「キザですわ」
「この野郎」
 上原さんは私の肩をとんとこぶしで叩《たた》いて、また大きいくしゃみをなさった。
 福井さんとかいうお方のお宅では、みなさんがもうおやすみになっていらっしゃる様子であった。
「電報、電報。福井さん、電報ですよ」
 と大声で言って、上原さんは玄関の戸をたたいた。
「上原か?」
 と家の中で男のひとの声がした。
「そのとおり。プリンスとプリンセスと一夜の宿をたのみに来たのだ。どうもこう寒いと、くしゃみばかり出て、せっかくの恋の道行《みちゆき》もコメディになってしまう」
 玄関の戸が内からひらかれた。もうかなりの、五十歳を越したくらい
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