いんです。
困った女。しかし、この問題で一ばん苦しんでいるのは私なのです。この問題に就いて、何も、ちっとも苦しんでいない傍観者が、帆を醜くだらりと休ませながら、この問題を批判するのは、ナンセンスです。私を、いい加減に何々思想なんて言ってもらいたくないんです。私は無思想です。私は思想や哲学なんてもので行動した事は、いちどだってないんです。
世間でよいと言われ、尊敬されているひとたちは、みな嘘つきで、にせものなのを、私は知っているんです。私は、世間を信用していないんです。札つきの不良だけが、私の味方なんです。札つきの不良。私は、その十字架にだけは、かかって死んでもいいと思っています。万人に非難せられても、それでも、私は言いかえしてやれるんです。お前たちは、札のついていないもっと危険な不良じゃないか、と。
おわかりになりまして?
こいに理由はございません。すこし理窟みたいな事を言いすぎました。弟の口真似《くちまね》に過ぎなかったような気もします。おいでをお待ちしているだけなのです。もう一度おめにかかりたいのです。それだけなのです。
待つ。ああ、人間の生活には、喜んだり怒ったり悲しん
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