。発狂しているのではないかしらと反省する、そんな気持も、たくさんあるんです。でも、私だって、冷静に計画している事もあるんです。本当に、こちらへいちどいらして下さい。いつ、いらして下さっても大丈夫。私はどこへも行かずに、いつもお待ちしています。私を信じて下さい。
 もう一度お逢いして、その時、いやならハッキリ言って下さい。私のこの胸の炎は、あなたが点火したのですから、あなたが消して行って下さい。私ひとりの力では、とても消す事が出来ないのです。とにかく逢ったら、逢ったら、私が助かります。万葉や源氏物語の頃《ころ》だったら、私の申し上げているようなこと、何でもない事でしたのに。私の望み。あなたの愛妾《あいしょう》になって、あなたの子供の母になる事。
 このような手紙を、もし嘲笑《ちょうしょう》するひとがあったら、そのひとは女の生きて行く努力を嘲笑するひとです。女のいのちを嘲笑するひとです。私は港の息づまるような澱《よど》んだ空気に堪え切れなくて、港の外は嵐《あらし》であっても、帆をあげたいのです。憩《いこ》える帆は、例外なく汚い。私を嘲笑する人たちは、きっとみな、憩える帆です。何も出来やしな
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