思わない。」
「どうも判らん。リアリズムで行こう。旅でもしてみるかね。さまざまに、女をうごかしてみると、案外はっきり判って来るかもしれない。」
「ところが、あんまりうごかない人なのだ。ねむっているような女だ。」
「君は、てれるからいけない。こうなったら、厳粛に語るよりほかに方法がないのだ。まず、その女に、君の好みの、宿屋の浴衣を着せてみようじゃないか。」
「それじゃ、いっそのこと、東京駅からやってみようか。」
「よし、よし。まず、東京駅に落ち合う約束をする。」
「その前夜に、旅に出ようとそれだけ言うと、ええ、とうなずく。午後の二時に東京駅で待っているよ、と言うと、また、ええとうなずく。それだけの約束だね。」
「待て、待て。それは、なんだい。女流作家かね?」
「いや、女流作家はだめだ。僕は女流作家には評判が悪いのだ、どうもねえ。少し生活に疲れた女画家。お金持の女の画かきがあるようじゃないか。」
「同じことさ。」
「そうかね。それじゃ、やっぱり芸者ということになるかねえ。とにかく、男におどろかなくなっている女ならいいわけだ。」
「その旅行の前にも関係があるのかね?」
「あるような、ないよう
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