雌に就いて
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)嫌味《いやみ》

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(例)[#ここから引用文、8字下げ]
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[#ここから8字下げ]
 フィジー人は其《その》最愛の妻すら、少しく嫌味《いやみ》を覚ゆれば忽《たちま》ち殺して其肉を食うと云う。又タスマニヤ人は其妻死する時は、其子までも共に埋めて平然たる姿なりと。濠洲の或る土人の如きは、其妻の死するや、之《これ》を山野に運び、其脂をとりて釣魚の餌となすと云う。
[#ここで字下げ終わり]



 その若草という雑誌に、老い疲れたる小説を発表するのは、いたずらに、奇を求めての仕業《しわざ》でもなければ、読者へ無関心であるということへの証明でもない。このような小説もまた若い読者たちによろこばれるのだと思っているからである。私は、いまの世の中の若い読者たちが、案外に老人であることを知っている。こんな小説くらい、なんの苦もなく受けいれて呉《く》れるだろう。これは、希望を失った人たちの読む小説である。
 ことしの二月二十六日には、東京で、青年の将校たちがことを起
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