けない。僕たちは、どうも意気ではないのでねえ。」
「パジャマかね?」
「いっそう御免だ。着ても着なくても、おなじじゃないか。上衣《うわぎ》だけなら漫画ものだ。」
「それでは、やはり、タオルの類かね?」
「いや、洗いたての、男の浴衣《ゆかた》だ。荒い棒縞で、帯は、おなじ布地の細紐《ほそひも》。柔道着のように、前結びだ。あの、宿屋の浴衣だな。あんなのがいいのだ。すこし、少年を感じさせるような、そんな女がいいのかしら。」
「わかったよ。君は、疲れている疲れていると言いながら、ひどく派手なんだね。いちばん華《はな》やかな祭礼はお葬《とむら》いだというのと同じような意味で、君は、ずいぶん好色なところをねらっているのだよ。髪は?」
「日本髪は、いやだ。油くさくて、もてあます。かたちも、たいへんグロテスクだ。」
「それ見ろ。無雑作の洋髪なんかが、いいのだろう? 女優だね。むかしの帝劇専属の女優なんかがいいのだよ。」
「ちがうね。女優は、けちな名前を惜しがっているから、いやだ。」
「茶化しちゃいけない。まじめな話なんだよ。」
「そうさ。僕も遊戯だとは思っていない。愛することは、いのちがけだよ。甘いとは
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