の悪口も言うまい。呼んだ奴が、ばかなのだ。
「料理をたべませんか。僕は宿で、たべて来たばかりなのです。むだですよ。たべて下さい。」私は、たべものをむだにするのが、何よりもきらいな質《たち》である。食い残して捨てるという事ぐらい完全な浪費は無いと思っている。私は一つの皿の上の料理は、全部たべるか、そうでなければ全然、箸《はし》をつけないか、どちらかにきめている。金銭は、むだに使っても、それを受け取った人のほうで、有益に活用するであろう。料理の食べ残しは、はきだめに捨てるばかりである。完全に、むだである。私は目前に、むだな料理の山を眺めて、身を切られる程つらかった。この家の人、全部に忿懣《ふんまん》を感じた。無神経だと思った。
「たべなさいよ。」私は、しつこく、こだわった。「客の前でたべるのが恥ずかしいのでしたら、僕は帰ってもいいのです。あとで皆で、たべて下さい。もったいないよ。」
「いただきます。」女は、私の野暮《やぼ》を憫笑《びんしょう》するように、くすと笑って馬鹿|叮嚀《ていねい》にお辞儀をした。けれども箸は、とらなかった。
すべて、東京の場末の感じである。
「眠くなって来た。帰り
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