う》に遂行した人の中に、あのひとも混っていたような気がしてならぬ。
 同志たちは次々と投獄せられた。ほとんど全部、投獄せられた。
 中国を相手の戦争は継続している。
         ×
 私は、純粋というものにあこがれた。無報酬の行為。まったく利己の心の無い生活。けれども、それは、至難の業であった。私はただ、やけ酒を飲むばかりであった。
 私の最も憎悪したものは、偽善であった。
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 キリスト。私はそのひとの苦悩だけを思った。
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 関東地方一帯に珍らしい大雪が降った。その日に、二・二六事件というものが起った。私は、ムッとした。どうしようと言うんだ。何をしようと言うんだ。
 実に不愉快であった。馬鹿野郎だと思った。激怒に似た気持であった。
 プランがあるのか。組織があるのか。何も無かった。
 狂人の発作に近かった。
 組織の無いテロリズムは、最も悪質の犯罪である。馬鹿とも何とも言いようがない。
 このいい気な愚行のにおいが、所謂大東亜戦争の終りまでただよっていた。
 東条の背後に、何かあるのかと思ったら、格別のものもなかった。からっぽであった。怪談
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