苦悩の年鑑
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)狐《きつね》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)明治天皇|崩御《ほうぎょ》の時の思い出である。
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時代は少しも変らないと思う。一種の、あほらしい感じである。こんなのを、馬の背中に狐《きつね》が乗ってるみたいと言うのではなかろうか。
いまは私の処女作という事になっている「思い出」という百枚ほどの小説の冒頭は、次のようになっている。
「黄昏《たそがれ》のころ私は叔母《おば》と並んで門口に立っていた。叔母は誰かをおんぶしているらしく、ねんねこを着ていた。その時のほのぐらい街路の静けさを私は忘れずにいる。叔母は、てんしさまがお隠れになったのだ、と私に教えて、いきがみさま、と言い添えた。いきがみさま、と私も興深げに呟《つぶや》いたような気がする。それから、私は何か不敬なことを言ったらしい。叔母は、そんなことを言うものでない、お隠れになったと言え、と私をたしなめた。どこへお隠れになったのだろう、と私は知っていながら、わざとそう尋ねて叔母を笑わせたのを思い出す。」
これは明治天皇|崩御《
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