ある。
         ×
 博愛主義。雪の四つ辻に、ひとりは提燈《ちょうちん》を持ってうずくまり、ひとりは胸を張って、おお神様、を連発する。提燈持ちは、アアメンと呻く。私は噴き出した。
 救世軍。あの音楽隊のやかましさ。慈善鍋《じぜんなべ》。なぜ、鍋でなければいけないのだろう。鍋にきたない紙幣や銅貨をいれて、不潔じゃないか。あの女たちの図々《ずうずう》しさ。服装がどうにかならぬものだろうか。趣味が悪いよ。
 人道主義。ルパシカというものが流行して、カチュウシャ可愛いや、という歌がはやって、ひどく、きざになってしまった。
 私はこれらの風潮を、ただ見送った。
         ×
 プロレタリヤ独裁。
 それには、たしかに、新しい感覚があった。協調ではないのである。独裁である。相手を例外なくたたきつけるのである。金持は皆わるい。貴族は皆わるい。金の無い一|賤民《せんみん》だけが正しい。私は武装|蜂起《ほうき》に賛成した。ギロチンの無い革命は意味が無い。
 しかし、私は賤民でなかった。ギロチンにかかる役のほうであった。私は十九歳の、高等学校の生徒であった。クラスでは私ひとり、目立って華
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