ぜ、なぞという馬鹿な事を言って、更に更に風間とその一党に対して忠誠を誓うのである。
 風間は真面目な顔をして勝治の家庭にまで乗り込んで来る。頗《すこぶ》る礼儀正しい。目当《めあて》は節子だ。節子は未だ女学生であったが、なりも大きく、顔は兄に似ず端麗《たんれい》であった。節子は兄の部屋へ紅茶を持って行く。風間は真白い歯を出して笑って、コンチワ、と言う。すがすがしい感じだった。
「こんないい家庭にいて、君、」と隣室へさがって行く節子に聞える程度の高い声で、「勉強しないって法は無いね。こんど僕は、ノオトを都合してやるから勉強し給え。」と言う。
 勝治は、にやにや笑っている。
「本当だぜ!」風間は、ぴしりと言う。
 勝治は、あわてふためき、
「うん、まあ、うん、やるよ。」と言う。
 鈍感な勝治にも、少しは察しがついて来た。節子を風間に取りもってやるような危険な態度を表しはじめた。みつぎものとして、差し上げようという考えらしい。風間がやって来ると用事も無いのに節子を部屋に呼んで、自分はそっと座はずす。馬鹿げた事だ。夜おそく、風間を停留場まで送らせたり、新宿の風間のアパートへ、用も無い教科書などを
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