には、おれから、うまく言って置きました。まあ、お坐りなさい。」さちよの顔を笑ってそっと見上げ、「よかったね。よく、君は、無事で、――」涙ぐんでいた。
 さちよは、机の上に片手をつき、崩れるように坐って、
「よくもないわ。煙草ないの? おやおや、あたし、あなたの顔を見ると、急に、煙草ほしくなるのね。」
「これは、ごあいさつだな。」助七は、それでも、恐悦であった。
「僕は、しつれいしましょう。」青年は、先刻から襖《ふすま》にかるく寄りかかり、つっ立ったままでいた。
「そう?」さちよは、きょとんとした顔つきで青年を見上げ、煙草のけむりをふっと吐いた。
「御自重なさいね。僕は、責任をもって、あなたを引き受けたのです。須々木さんのためにも、しっかりしていて下さい。僕は、乙やんを信じているのだ。どんなことがあったって、僕は乙やんを支持する。じゃあまた、そのうち、来ます。」
「どうも、きょうは、ありがとう。」蓮葉《はすっぱ》な口調で言って、顔を伏せ、そっと下唇を噛んだ。
 青年を見送りに立とうともせず、顔を伏せたままで、じっとしていた。階段を降りて行く青年の足音が聞えなくなってから、ふっと顔をあげて
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