る社《やしろ》があるそうです。ハンザキというのは山椒魚の方言のようなものでありまして、半分に引き裂かれてもなお生きているほど生活力が強いという意味があるのではなかろうかと思いますが、そのハンザキ大明神としてまつられてある山椒魚も、おそろしく強く荒々しいものであったそうで、さかんに人間をとって食べたという口碑《こうひ》がありまして、それは作陽誌という書物にも出ているようでございます。あんまり人間をとって食べるので、或《あ》る勇士がついに之《これ》を退治して、あとの祟《たた》りの無いように早速、大明神として祀り込めてうまい具合におさめたという事が、その作陽誌という書物に詳しく書かれているのでございます。いまは、ささやかなお宮ですが、その昔は非常に大きい神社だったそうで、なんだか、八岐《やまた》の大蛇《おろち》の話に似ているようなところもあるではございませんか。決して、こだわるわけではありませぬが、作陽誌によりますると、そのハンザキの大きさが三丈もあったというのですが、それは学者たちにとっては疑わしい事かも知れませんが、どうも私は人の話を疑う奴はまことにきらいで、三丈と言ったら三丈と信じたら
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