いいではないか。(何も速記者に向って怒る必要はない)とにかく昔は、ほうぼうに山椒魚がいて、そうしてなかなか大きいのも居ったという事を私は信じたいのでございます。いったいあの動物は、からだが扁平《へんぺい》で、そうして年を経ると共に、頭が異様に大きくなります。そうして口が大きくなって、いまの若い人たちなどがグロテスクとか何とかいって敬遠したがる種類の風貌を呈してまいりますので、昔の人がこれを、ただものでないとして畏怖《いふ》したろうという事も想像に難くないのであります。実際また、いま日本の谷川に棲息している二尺か二尺五寸くらいの山椒魚でも、くらいついたり何かすると酷《ひど》いそうです。鋭い歯はありませんけれども何せ力が強うございますから、人間の指の一本や二本は、わけなく食いちぎるそうで、どうも、いやになります。(失言)その点に就いても私は山椒魚に対して常に十分の敬意を怠らぬつもりでございます。割合におとなしい動物でありますけれど、あれで、怒ると非常にこわいものだそうで、稲羽《いなば》の兎も、あるいはこいつにやられたのではなかろうかと私はにらんでいるのでございますが、これに就いてはなお研究
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