化石とそっくりだという事が明白になってまいりましたので、知らぬ振りをしているわけにもゆかず、ここに日本の山椒魚が世界中の学者の重要な研究課目と相なりまして、いやしくも古代の動物に関心を持つほどの者は、ぜひとも一度ニッポンの大サンショウウオにお目にかからなければ話にならぬとまで言われるようになって、なんとも実に痛快無比、御同慶のいたりに堪えません。思っても見よ(また気取りはじめた)太古の動物が太古そのままの姿で、いまもなお悠然とこの日本の谷川に棲息《せいそく》し繁殖し、また静かにものを思いつつある様は、これぞまさしく神ながら、万古不易の豊葦原《とよあしはら》瑞穂国《みずほのくに》、かの高志《こし》の八岐《やまた》の遠呂智《おろち》、または稲羽《いなば》の兎の皮を剥《は》ぎし和邇《わに》なるもの、すべてこの山椒魚ではなかったかと(脱線、脱線)私は思惟《しい》つかまつるのでありますが、反対の意見をお持ちの学者もあるかも知れません。別段、こだわるわけではありませんが、作州の津山から九里ばかり山奥へはいったところに向湯原村というところがありまして、そこにハンザキ大明神という神様を祀《まつ》ってい
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