る。私は涙を流している。眠りの中の夢と、現実がつながっている。気持がそのまま、つながっている。だから、私にとってこの世の中の現実は、眠りの中の夢の連続でもあり、また、眠りの中の夢は、そのまま私の現実でもあると考えている。
この世の中に於ける私の現実の生活ばかりを見て、私の全部を了解することは、他の人たちには不可能であろう。と同時に、私もまた、ほかの人たちに就《つ》いて、何の理解するところも無いのである。
夢は、れいのフロイド先生のお説にしたがえば、この現実世界からすべて暗示を受けているものなのだそうであるが、しかしそれは、母と娘は同じものだという暴論のようにも私には思われる。そこには、つながりがありながら、また本質的な差異のある、別箇の世界が展開せられている筈《はず》である。
私の夢は現実とつながり、現実は夢とつながっているとはいうものの、その空気が、やはり全く違っている。夢の国で流した涙がこの現実につながり、やはり私は口惜《くや》しくて泣いているが、しかし、考えてみると、あの国で流した涙のほうが、私にはずっと本当の涙のような気がするのである。
たとえば、或る夜、こんなことがあ
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング