フォスフォレッスセンス
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)綺麗《きれい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|米《メートル》ちかく、
−−
「まあ、綺麗《きれい》。お前、そのまま王子様のところへでもお嫁に行けるよ。」
「あら、お母さん、それは夢よ。」
この二人の会話に於いて、一体どちらが夢想家で、どちらが現実家なのであろうか。
母は、言葉の上ではまるで夢想家のようなあんばいだし、娘はその夢想を破るような所謂《いわゆる》現実家みたいなことを言っている。
しかし、母は実際のところは、その夢の可能性をみじんも信じていないからこそ、そのような夢想をやすやすと言えるのであって、かえってそれをあわてて否定する娘のほうが、もしや、という期待を持って、そうしてあわてて否定しているもののように思われる。
世の現実家、夢想家の区別も、このように錯雑しているものの如《ごと》くに、此頃《このごろ》、私には思われてならぬ。
私は、この世の中に生きている。しかし、それは、私のほんの一部分でしか無いのだ。同様に、君も、またあのひとも、その大部分を
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