ちへやって来て、うちの細君と論戦しているのを私は陰で聞いて、いや、面白かったですよ。疎開人にはまた疎開人としての言いぶんがあるらしいんですね。その細君の言うには、田舎《いなか》のお百姓さんが純朴だとか何とか、とんでもない話だ、お百姓さんほど恐ろしいものは無い。純朴な田舎の人たちに都会の成金どもがやたらに札びらを切って見せて堕落させたなんて言うけれども、それは、あべこべでしょう。都会から疎開して来た人はたいてい焼け出されの組で、それはもう焼かれてみなければわからないもので、ずいぶんの損害を受けているのです。それがまあ多少のゆかりをたよって田舎へ逃げて来て、何も悪い事をして逃げて来たわけでもないのに肩身を狭くして、何事も忍び、少しずつでも再出発の準備をしようと思っているのに、田舎の人たちは薄情なものです。私たちだって、ただでものを食べさせていただこうとは思っていません、畑のお仕事でも何でも、うんと手伝わせてもらおうと思っているのに、そのお手伝いも迷惑、ただもう、ごくつぶし扱いにして相談にも何も乗ってくれないし、仕事がないからよけいも無い貯金をおろして、お手伝いも出来ぬひけめから、少し奮発し
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