折には、細君の発明力は、国家の運命を左右すると、いや冗談でなく、僕は信じているのです。そうそう、君の小説にもそんなのがあったね。僕はいまの人の小説はあまり読まない事にしているので、君の小説もたった一つしか拝見した事はないのだが、何でも、新型の飛行機を発明してそれに載って田圃に落ちたとかいう発明の苦心談、あれは面白かった。」
 私はやはり黙って首肯した。しかし、そんな小説を書いた覚えは、私にはさらに無かった。
「とにかく、日本もこれから、新しい発明をしなければ駄目ですよ。男も女も、力を合せて、新しい発明を心掛けるべき時だと思っています。じっさい、うちの細君などは、まあ僕の口から言うのはおかしいですけれど、その点は、感心なものです。何かと新しい創意工夫をするのです。おかげで僕なんかは、こんな時代でも衣食住に於いて何の不自由も感じないで暮して来ましたからね。物が足りない物が足りないと言って、闇の買いあさりに狂奔《きょうほん》している人たちは、要するに、工夫が足りないのです。研究心が無いのです。このお隣りの畳屋にも東京から疎開《そかい》して来ている家族がおりますけれども、そこの細君がこないだう
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