やんぬる哉
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)逞《たくま》しゅう
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 こちら(津軽)へ来てから、昔の、小学校時代の友人が、ちょいちょい訪ねて来てくれる。私は小学校時代には、同級生たちの間でいささか勢威を逞《たくま》しゅうしていたところがあったようで、「何せ昔の親分だから」なんて、笑いながら言う町会議員などもある。同級生たちはもうみんな分別くさい顔の親父になって、町会議員やらお百姓さんやら校長先生やらになりすまし、どうやら一財産こしらえた者みたいに落ちつき払っている。しかし、だんだん話合ってみると、私の同級生は、たいてい大酒飲みで、おまけに女好きという事がわかり、互に呆《あき》れ、大笑いであった。
 小学校時代の友人とは、共に酒を飲んでも楽しいが、中学校時代の友人とは逢《あ》って話しても妙に窮屈だ。相手が、いやに気取っている。私を警戒しているようにさえ見える。そんなら何も私なんかと逢ってくれなくてもよさそうなものだが、この町の知識人としての一応の仁義と心得ているのか、わざわざ私に会見を申込む。
 ついせんだっても、この町の病院に勤めている一医師
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