から電話が掛って来て、今晩粗飯を呈したいから遊びに来いとの事であった。この医師は、私と中学校の同級生であったと、かねがね私の親戚の者たちに言っているそうであるが、私にはその人と中学時代に遊んだ記憶はあまり無い。名前を聞いて、ぼんやりその人の顔を思い出す程度である。或《ある》いは、彼は、私より一級上であったのが、三学年か四学年の時にいちど落第をして、それで私と同級生になったのではなかったかしら、とも私は思っている。どうも、そうだったような気もする。とにかく、その人と私とは、馴染《なじみ》が薄かった。
私はその人から晩ごはんのごちそうになるのはどうにも苦痛だったので、お昼ちょっと過ぎ、町はずれの彼の私宅にあやまりに行った。その日は日曜であったのだろう、彼は、ドテラ姿で家にいた。
「晩餐会《ばんさんかい》は中止にして下さい。どうも、考えてみると、この物資不足の時に、僕なんかにごちそうするなんて、むだですよ。つまらないじゃありませんか。」
「残念です。あいにく只今、細君も外出して、なに、すぐに帰る筈《はず》ですがね、困りました。お電話を差し上げて、かえって失礼したようなものですね。」
私は
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