りということに就いて

 気がかりということに、黒白の二種、たしかにあることを知る。なにわぶしの語句、「あした待たるる宝船。」と、プウシキンの詩句、「あたしは、あした殺される。」とは、心のときめきに於いては同じようにも思われるだろうが、熟慮半日、確然と、黒白の如く分離し在るを知れり。

     宿題

「チェック・チャックに就いて。」「策略ということについて。」「言葉の絶対性ということについて。」「沈黙は金なりということに就いて。」「野性と暴力について。」「ダンディスム小論。」「ぜいたくに就いて。」「出世について。」「羨望《せんぼう》について。」「原始のセンチメンタリティということについて。」そのほか、甚《はなは》だけちのようなれども、題名を言われぬもの、十七八項目くらい。少しずつノオトに書きしるしていっているのであるが、いま、「文芸雑誌。」創刊号になにか書くことをすすめられ、何を書こうかと、ノオトを二冊も三冊も出してあちらを覗《のぞ》き、こちらを覗きして、夕暮より、朝までかかった。どれもこれも、胸にひっからまり、工合いよくゆかぬ。牛乳を飲んで、朝の新聞を読んでいるうちに、わかった。
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